もののあわれについて858

侍従の君、まめ人の名をうれたしと思ひければ、二十よ日のころ、梅の花盛りなるに、「にほひ少なげに取りなされじ。好き者ならはむかし」と思して、藤侍従の御もとにおはしたり。中門入り給ふほどに、同じ直衣姿なる人立てりけり。隠れなむと思ひけるを、引きとどめたれば、この常に立ちわづらふ少将なりけり。寝殿の西おもてに、琵琶、筝の琴の声するに、心をまどはして立てるなめり。「苦しげや。人の許さぬこと思ひ始めむは、…

続きを読む