もののあわれについて863

これを聞くに、蔵人の少将は、死ぬばかり思ひて、母北の方をせめ奉れば、聞きわづらひ給ひて、雲居雁「いとかたはらいたき事につけて、ほのめかし聞こゆるも、世にかたくなしき闇のまどひになむ。思し知るかたもあれば、推しはかりて、なほ慰めさせ給へ」などいとほしげに聞こえ給ふを、苦しうもあるかな、と、うち嘆き給ひて、玉葛「いかなる事と思ひ給へ乱れてなむ。まめやかなる御心ならば、この程を思ししづめて、慰め聞こえ…

続きを読む

もののあわれについて862

君たちは、花の争ひをしつつ、明かし暮らし給ふに、風荒らかに吹きたる夕つかた、乱れ落つるがいと口惜しうあたらしければ、負けがたの姫君、 桜ゆえ 風に心の さわぐかな 思ひぐまなき 花と見る見る 御かたの宰相の君、 咲くとみて かつは散りぬる 花なれば 負くるを深き 恨みともせず と聞こえ助くれば、右の姫君 風に散る ことは世のつね 枝ながら うつろふ花を ただにしも見…

続きを読む

もののあわれについて861

院へ参り給はむことは、この君だちぞ、「なほもののはえなきここちこそすべけれ。よろづの事、時につけたるをこそ、世の人も許すめれ。げに、いと見奉らまほしき御ありさまは、この世にたぐひなくおはしますめれど、盛りならぬここちぞするや。琴笛の調べ、花鳥の色をもねをも、時にしたがひてこそ、人の耳もとまるものなれ、東宮はいかが」など申し給へば、玉葛「いさや。はじめよりやむごとなき人の、かたはらもなきやうにての…

続きを読む