もののあわれについて908 2017年11月30日 何事にもあるに従ひて、心をたつる方もなく、おどけたる人こそ、ただ世のもてなしに従ひて、とあるもかかるもなのめに見なし、すこし心にたがふ節あるにも、「いかがはせむ、さるべきぞ」なども、思ひなすべかめれば、なかなか心長きためしになるやうもあり。くづれそめては、竜田の川の濁る名をもけがし、いふかひなく名残りなきやうなる事なども、皆うちまじるめれ。 何事につけても、あるがままに任せ…続きを読む
もののあわれについて907 2017年11月26日 阿闍梨の室より、炭などやうの物奉るとて、「年頃にならひ侍りにける宮仕への、今とて絶え果つらむが、心細さになむ」と、聞こえたり。必ず冬ごもる山風防ぎつべき綿衣などつかはししを、思し出でてやり給ふ。法師ばら、童べなどの登り行くも、見えみ見えずみ、いと雪深きを、泣く泣く立ちいでて見送り給ふ。姫たち「みぐしなどおろい給うてける。さる方にておはしまさましかば、かやうに通ひ参る人も、おのづから繁からまし。い…続きを読む
もののあわれについて906 2017年11月25日 兵部卿の宮に対面し給ふ時は、まづこの君達の御事を扱ひぐさにし給ふ。今はさりとも心やすきを、と思して、宮はねんごろに聞こえ給ひけり。はかなき御返りも、聞こえにくくつつましき方に、女がたは思いたり。世にいといたう好き給へる御名の広ごりて、好ましくえんに思さるべかめるも、かういと埋づもれたるむぐろの下よりさしいでたらむ手つきも、いかにうひうひしく、古めきたらむ、など思ひしく給へり。 …続きを読む