もののあわれについて929 2018年05月31日 その夜も、かのしるべ誘ひ給へど、薫「冷泉院に必ず候ふべき事侍れば」とて、とまり給ひぬ。例の、ことに触れてすさまじげに世をもてなす、と、にくく思す。 その夜も、あの、案内役をお誘いになったが、薫は、冷泉院に、是非とも候しなければならないことがあります。と言い、お断りになった。また始まったものだ。何かと言えば、女に興味がない顔をする。と、匂宮は、憎らしく思うのである。 …続きを読む
もののあわれについて928 2018年05月30日 暗き程に、と、いそぎ帰り給ふ。道の程も帰るさはいと遥けく思されて、心安くもえ行きかよはざらむ事の、かねていと苦しきを、「よをやへだてむ」と思ひなやみ給ふなめり。 暗いうちにと、急いで、お帰りになる。道のりも、帰りは、とても遠く感じられて、気軽に、行き来できそうにないことが、今から、辛いが、一夜でも、欠かさぬようにと、気にやんでいらした。 まだ人さわがしからぬあ…続きを読む
もののあわれについて927 2018年05月29日 薫「今はいふかひなし。ことわりは、返す返す聞こえさせてもあまりあらば、抓みも捻らせ給へ。やむごとなき方に思し寄るめるを、宿世などいふめるもの、さらに心にかはぬものに侍るめれば、かの御心ざしはことに侍りけるを、いとほしく思ひ給ふるに、かなはぬ身こそおき所なく心憂く侍りけれ。なほ、いかがはせむに、思し弱りね。この御障子のかためばかりいと強きも、まことに物清くおしはかり聞こゆる人も侍らじ。しるべといざ…続きを読む