もののあわれについて940

宮は、立ちかへり、例のやうにしのびて、と、いでたち給ひけるを、内に、「かかる御しのび事により、山里の御ありきも、ゆくりかに思し立つなりけり。かろがろしき御ありさまと、世人も下にそしり申すなり」と、衛門の督のもらし申し給ひければ、中宮もきこしめし歎き、上もいとど許さぬ御けしきにて、「おほかた心にまかせ給へる御里住みのあしきなり」と、きびしき事ども出で来て、内につとさぶらはせ奉り給ふ。左のおほいとの…

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もののあわれについて939

かしこには、過ぎ給ひぬるけはひを、遠くなるまで聞こゆるさきの声々、ただならず覚え給ふ。心まうけしつる人々も、いとくちおしと思へり。姫宮はまして、「なほおとに聞く月草の色なる御心なりけり。ほのかに人のいふを聞けば、男といふものは、そらごとをこそいとよくすなれ。思はぬ人を思ふ顔にとりなす言の葉多かるものと、この人数ならぬ女ばらの、昔物語に言ふを、さるなほなほしきなかにこそは、けしからぬ心あるもまじる…

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もののあわれについて938

「今日はかくて」と思すに、また、宮の大夫、さらぬ殿上人など、あまた奉れ給へり。心あわただしく、くちおしくて、帰り給はむそらなし。かしこには御文をぞ奉れ給ふ。をかしやかなる事もなく、いとまめだちて、思しける事どもをこまごまと書き続け給へれど、「人目しげく騒がしからむらに」とて、御かへりなし。「数ならぬありさまにては、めでたき御あたりにまじらはむ、かひなきわざかな」と、いとどおぼし知り給ふ。よそにて…

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