踊れ歌えやピリピノ・ウェディング 19

 エイシァ、チエル、フランシスとわたしの4人は、ジプニ(乗り合いタクシー)に乗って韓国料理屋へ向かった。

 テーブルに着き、焼き肉や、韓国鍋を頼む。メニューを見て、これって何が入ってるの、とフランシスにいちいち確認するエイシァ。わたしに向きなおり、

「イロンゴ人っていうのは、とってもピッキー(選り好みする性格)なのよ。子供のころ、あんまりいろんな食べ物が無かったから。韓国料理で、わたしの口に合うのは…」

 と前菜のもやしの煮つけ、小魚の炒ったもの、キムチを皿にとる。豚肉は、においを嗅ぐだけで吐き気がするとか。チエルは、そんなエイシァを気にするふうでもなく、豚肉を焼き出す。

「じつはわたし、ハシつかうの、生まれてはじめて」とチエル。

 韓国風の金属製の箸を、棒きれでもつかむように2本とも握りしめている。わたしは思わず吹き出し、こう使うんですよ、と正しい持ち方を教えた。

 しずかに驚くチエル。「日本人って、こんなの使うんだ。天才じゃないの」といわれ、あらためてわたしは自分の箸を使う手を眺めなおした。

 どうやって使うのかと3人からきかれ、説明しようとするがうまく言えない。3才の頃から身についている動作なので、もう手が箸なのか、箸が手なのか分からない位に馴染んでいる。母親に教わったころまで記憶を巻き戻して、3人に箸の使い方をレクチャーした。

――まず、一本を人差し指と中指の間に挟みます。もう一本は薬指に軽く添わせます。動かすのは、上の一本だけ。力を抜いて、自然にそっと。

 フランシスは、かなり上手に箸を使えた。日本のマンガの大ファンだというだけはある。エイシァとチエルの女性陣は、まったくダメ。チエルは、半泣きするような顔をして、

「もうだめ、指がつる。しびれてきたわ」という。

 負けず嫌いのエイシァは、思うように動かない箸に、早くも見切りをつけたようである。

「できた!」とチエルがいうので、見るとチヂミを目の前にかかげている。すごいじゃない、と誉めようとするとフランシスが、

「チエルがどうやったかよーく見なよ」といった。

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 じっと手元を凝視すると、箸をチヂミにつきさしただけであった。脱力するわたし。

 時を忘れる楽しい食事だった。イロンゴ人の文化を学び、また日本の文化を伝える。インターネットが普及し、調べられない事は何もないような気がする昨今だけれど、やはり面と向かって交流することで新鮮な発見がある。

 世界は思ったより広いのだ。未知のものに触れることによって、心身ともに活性化される。子供時代がいきいきしているのは、知らないことに日々出会うからではないか。