踊れ歌えやピリピノ・ウェディング 20  ネグロス島バコロド平成29年5月

 さて、白砂の小島への小旅行からさかのぼること12時間。わたしはエイシァとフランシスの披露宴のさなかにあった。舞台と照明つきの、野外ショーさながらのセット。何がはじまるか、てんで分からなかった。

 ブーケ投げの時間である。MCが会場の未婚女性を舞台に集めた。フィリピンのブーケ投げは、気の済むまで投げてよいというルールらしい。7人ほどいる女性のうち、さいごまでブーケをとりそこねたひとが、この会場の独身男性と知り合う権利を得る、という。

「勇気ある独身オトコは名乗りを上げてくれ! もちろんコータ、君でもいいぞ」とMC。

 わたしは呆けたようにブーケに群がる女性を眺めていた。

 4個ほどブーケが投げられたとき、MCが割って入り、「よし、決めた。あなたにする、ヴァーンさん」とひとりの女性の腕を取る。「それで、このレディーのお相手になる、とても幸運なオトコは誰にしようかな。うーん、仕方ない、君でいいよ、コータ」

 どうやらはじめから、エイシァが段取りを組んでいた様子である。

 わけも分からず舞台に引き上げられるわたし。その後わたしは、とことんまで余興の種にされる事になる。

 ヴァーンさんは、エイシァの銀行勤め時代の同僚で、27才。ボーイフレンドがいないとの事で、淋しいだろうと気をまわしたエイシァが、こんかい舞台の主役に選んだらしい。

 フィリピンのこの手の余興は、てらいもない下ネタ。カソリックの真面目さがある反面、こうしたユーモラスな面はフィリピンの楽しさの最もたる部分だろう。公衆の面前で、MCにより、私はいきなりヴァーンさんにキスすることになった。

 焦るわたし。その様子に笑い声がさざめく。「さあ、ヴァーン! みんなにあなたの魅力をアピールしてくれ!」というMCに、さっそうとキャットウォークで応えるヴァーンさん。もの怖じのしなさにおいては、フィリピン女性には、他のアジア人に比べてもひとつ図抜けたところがあると思う。

 椅子に座らせられたヴァーンさんに、MCに急かされ、私が口づけしようとすると、「ストーップ!」の声がかかった。「フィリピンには、愛を確認する儀式があるんだ。花嫁が太ももに巻いているバンドを、君が預かってヴァーンさんの足に巻いていくのだよ」

 どうやら、花嫁が花婿との初夜を過ごすにあたり、了承したという意思をしめすため、花婿の手でバンドが足首から太ももまで上げられるらしい。それを行っていいのかと、わたしがヴァーンさんにうかがいを立てるようなのだ。

 フランシスがエイシァの足からバンドを外し、「幸運を祈るよ」と私に渡す。さて困った。100名の前で、ヴァーンさんのスカートのすその下から、バンドを素足に巻かねばならない。MCのみちびきで、わたしはひざまずき、彼女の足首にバンドを着けた。ヴァーンさんはその習慣を知っているので、自らスカートをかるく上げる。

 MCが「さて、会場の皆さん。このバンドの位置は、高いと思うか低いと思うか! もっと高くするべきか? そこのあなた!」

 無作為にMCが指さし、「高く? 低く?」ときく。「高く」と応える参加者。「どのくらい?」「20インチ…」

 20インチ、バンドを上げるわたし。だんだんとひざにちかづき、スカートのすそはますます上がる。欲望を直に刺激するがごときである。つぎつぎに参加者が「高く」と応え、じょじょにバンドは上がっていき、とうとうスカートの奥に手を入れないと上げられない、となったところで、MCがストップをかけた。

「気分はどうだい? コータ」
「……いいです」

「オーケー、それでは、ヴァーンの気持ちもきかないとな。どうだい? 気持ちは」

 ヴァーンさんは、首をふり、良くないと応える。未婚の貞操の固い女性なので、浮ついた誘いは断ります、という事らしい。はじめから決まったやりとりなのだけれど、やはり見ている方は面白いらしい。笑い声が巻き起こる。

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「そうかあ。残念だが、この話はなかったってことにしてくれ」とMCがしめくくり、わたしたちは席に戻された。

 フィリピン流の、熱すぎる熱烈歓迎であった。