ふざけつづけていた司会のMCが、ふと表情を変えて、「それでは、新郎新婦の二人から、みんなへ一言いってもらおう」とマイクをフランシスに渡した。
若い二人は、舞台に立ち、集まった100人全員を、優しさをこめて眺め渡した。
僕からは、といい、言葉に詰まるフランシス。
「……感謝、しかありません」
両親、ブライダル・カンパニーのスタッフ、司会、全員の名前をあげた。スタッフは、恐縮して、頭を下げる。誰に対しても気を配るのが、フランシスの人柄。
フランシスは、エイシァにマイクを渡した。
純白のカクテルドレスを着たエイシァが、フランシスからマイクを受けとった。前に出て、しばらくうつむいた後、しずかに話し出した。
「この日のために、1年のあいだ準備をしました。思ってもみてください、1年です。しかも私たちはマニラで働いているので、全てをここバコロドで予定するのは、思った以上に大変でした。それでも、こうして集まってくれたみんなの笑顔を見れるのは、この上ない喜びです。とくに――」
いちばん遠くから来てくれた友人、と言って、わたしの事をみんなに語った。イロンゴ語、タガログ語に英語を織り交ぜながら、わたしとの出会い、今日に至るいきさつを話す。
バコロドの空港で、タクシー運転手とケンカしていたわたしたちに、勇気を出して話かけたこと。わたしたちから送られた日本の中古服を手に、ともに孤児院をまわったこと。毎年8月のエイシァの誕生日に、必ずわたしたちから贈り物が届いたこと。
来賓席で、わたしはエイシァの一言一言を、噛みしめるようにききながら、日本とフィリピン、ネグロス島の来し方に思いを馳せた。
これまでも何度か触れたが、バコロドのイロンゴ族と日本人は、互いに憎み合った時期があった。イロンゴ族とわたしたち日本人は、通じ合える心性を持つのに、どうして戦わなければならなかったのか。陰惨な殺し合いをする運命に引き込まれたのは何故なのか。
イロンゴと日本、その不幸な一時期を理解するには、大航海時代までさかのぼらなくてはならない。