もののあわれについて929

その夜も、かのしるべ誘ひ給へど、薫「冷泉院に必ず候ふべき事侍れば」とて、とまり給ひぬ。例の、ことに触れてすさまじげに世をもてなす、と、にくく思す。




その夜も、あの、案内役をお誘いになったが、薫は、冷泉院に、是非とも候しなければならないことがあります。と言い、お断りになった。また始まったものだ。何かと言えば、女に興味がない顔をする。と、匂宮は、憎らしく思うのである。




姫宮「いかがはせむ。ほいならざりし事とて、おろかにやは」と思ひ弱り給ひて、御しつらひなどうちあはぬ住みかなれど、さる方にをかしくしなして、待ちきこえ給ひけり。はるかなる御なかみちを、急ぎおはしましたりけるも、うれしきわざなるぞ、かつはあやしき。




姫宮は、仕方がない。願いもしなかったこと。だからと言って、疎かに出来ようか。と、気折れになり、お部屋飾りなど、足りないだけらの住まいだが、それはそれで、風流に整えて、お待ち申していらした。はるばると、遠路を急いで、お出でなさったことも、嬉しく思うとは、また、おかしなもの。




さうじみはわれにもあらぬさまにて、つくろはれ奉り給ふままに、濃き御衣の袖いたくぬるれば、さかし人もうち泣き給ひつつ、姫宮「世の中に久しくもと覚え侍らるば、明け暮れのながめにも、ただ御事をのみなむ心ぐるしく思ひ聞こゆるに、この人々も、よかるべきさまの事と、聞きにくきまで言ひ知らすめれば、年へたる心どもには、さりとも世のことわりをも知りたらむ。はかばかしくもあらぬ心ひとつを立てて、かくてのみやは見奉らむ、と思ひなるやうもありしかど、ただ今かく、思ひもあへず、はづかしき事どもに乱れ思ふべくは、さらに思ひかけ侍らざりしに、これやげに人の言ふめる、のがれがたき御ちぎりなりけむ。いとこそ苦しけれ。すこし思しなぐさみなむに、知らざりしさまをも聞こえむ。にくしとな思し入りそ。罪もぞえ給ふ」と御くしをなでつくろひつつ聞こえ給へば、いらへもし給はねど、さすがに、かく思し宣ふが、げにうしろめたくあしかれとも思しおきてじを、人わらへに見苦しきこと添ひて、見あつかはれ奉らむがいみじさを、よろづに思ひい給へり。




ご本人は、生気もない様子で、身じまいをして、差し上げるままに、濃い色の、お召し物の袖が、酷く濡れるので、しっかり者の姉宮も、涙にむせびつつ、姫宮は、この世に、長くとも思われないので、明け暮れの考え事にも、ただ、あなたの身だけを、心苦しく思いあげていたところ、この女房たちも、きっと、お似合いのご縁と、聞いていられない程に、申します。年とった連中は、何と言っても、世間の道理も知っていましょう。頼りない私一人の考えを通して、こんなにまでも、ここのままでは、と考えるようになりました。今すぐに、こう、思いもかけず、恥ずかしい思いで、気を遣うとは、全く考えませんでした。これが本当に、人のよく言う、逃れられないお約束だったのでしょう。とても、辛いです。少しお心が静まりましたら、知らなかった訳も申し上げます。お恨みになっては、いけません。罪を作ります。と、御髪を撫でて、整えながら、申し上げると、返事もないが、それでも、このように思いになり、おっしやるのに、本当に、心配な悪いようにと思いではないだろう。物笑いになる、みっともないことまでして、お世話をかけては、大変、と、中の宮は、考えに考えて、おいでになった。




さる心もなく、あきれ給へりしけはひだに、なべてならずをかしかりしを、まいて少し世の常のなよび給へるは、御心ざしもまさるに、たはやすく通ひ給はざらむ山みちの遥けさも、胸いたきまで思して、心深げにかたらひ頼め給へど、あはれともいかにとも思ひわき給はず。いひ知らずかしづく物の姫君も、すこし世の常の人げ近く、親兄などいひつつ、人のたたずまひをも見なれ給へるは、物の恥づかしさも、おそろしさも斜にやあらむ。家にあがめ聞ゆる人こそなけれ、かく山深き御あたりなれば、人に遠く、もの深くてならひ給へるここちに、思ひかけぬ有様のつつましく恥づかしく、なにごとも世の人に似ず、あやしくいなかびたらむかし、と、はかなき御いらへにても言ひ出でむ方なく、つつみ給へり。さるは、この君しもぞ、らうらうじくかどある方のにほひはまさり給へる。




匂宮は、そんなつもりもなく、びっくりしていた様子さえ、並々ならぬ、美しさだったものを、その上、少し世間並に、優しくなったのは、ご愛情も増すが、たやすく通うことも出来ない、山道の遠さも、切ないまでに思い、いかにも、真心を込めた話ぶりで、お約束されるが、嬉しいとも、どうとも、解らない。
大事にされている、大家のお姫様でも、少し世間並に人に接し、親とか、兄とかといい、男の立ち居ぶるまいを見ている方は、物恥ずかしさも、怖さも普通だろう。
家の中で、大切に申し上げる人こそいないが、こんな山深い所なので、人から離れて、ひっそりと育った方とて、想像もしなかった有様が、きまり悪く恥ずかしく、何事も、世間の人と違い、変な田舎くさいことだろう。と、少しのお答えでも、口のきき用もなく、固くなっていらした。
実は、この君こそ、はきはきして、機知に富んだ、魅力が勝っていらっしゃるのだ。

物の姫君・・・
姫君らしい、姫君の意味。

上記の文は、匂宮と、中の宮の心境を書いている。
とても、解りにくい、文章である。

中の宮の話であるが、姉宮の方が、機知に富んで、魅力があると、作者が、言うのである。