4年ぶりのほほ笑み 2 タイ旅日記--文責;コータ

 大手航空会社をあきらめて、LCCにしたのは良い。

 しかし予約する段になって、トラブルが発生した。スクートの直営ウェブサイトから日本語で予約できるので、何も考えずそうしようとしたところ、サイトがうまく動かないのである。

 出発地、到着地、日程から旅行者情報、全て入れて、さいごに入金して確定となる。その時、カードを使うのをためらった。動きの悪いウェブサイトでカードを使用すると、二重請求などになりやすい。

 後始末が面倒なので、その場で引き落としが確認できるペイジー(ネットバンキング振替)を使った。

 それが何回やっても次のページに進まず、はじめからやり直しとなる。そのくせ、入れた情報だけはサイトに残るようで、3回も新規入金待ち状態となった。“タイへ行きたいミスター・コータ”が、ネット上に3人待っている。大間抜けである。

 メールでは、その3人に「入金はまだですか? 空席がある今がチャンス!」などと明るい感じで来るのに、肝心の入金が出来ないのでは、お話にならないのだ。

 らちが明かないので、いちどフィリピン旅行で使った事のある、ウェブ上の旅行会社を通じて予約した。同じ日程の同じ便だったけれど、すんなりと予約できた。

 その経験から学んだことは、たとえ日本語表示されるとはいえ、LCCの直営サイトでの申し込みは(日本⇔海外の場合)止めた方がいいという事。サイトの運営会社はスペインにあるようだ。お金を入れたのに予約されないなどのトラブルがあっても、相手がスペインでは分が悪そうである。

 海外格安航空券は、LCC直営のサイトではなく、日本の旅行会社を通すべし。技術的な事なので、いずれは改善されるだろうけれど、それまではちゃんと日本語で確認や質問ができるところを選んだ方がいい。君子ではないけれど危うきには近づきたくない。

 さて、出発当日。大雨のなか朝5時半にタクシーでバスターミナルに向かう。

 運転士さんに、つい、夜勤明けですかなどと話しかける。やはり浮ついていたのだろう。

「ええ、ちょうどこの時間帯はお客さんが少ないですから、良かったです」

 そうですね、お酒飲んだ人はもっと早く帰るし、出勤に使う人はもう少し後ですし、と話しているうちにバスターミナルに到着。成田空港へ向かうバスに揺られて90分。10時の出発だったので、出国手続きなど済ませても、ややしばらく待った。

 朝早く起きたのと、夕べぎりぎりまで荷造りをして3時間ほど仮眠をとっただけなので、しんどい。すでにこの時点で移動時間が4時間半。LCCなので覚悟はしていたのだけれど、じっさいにやってみるとぐったり。周りの人たちも目の下にくまをつくってうなだれている。

 LCCのスクートを利用するにあたって、いろいろと不安があった。6時間半のフライト、サービスは基本的に何もない。JALなら機内Wi-fi(無線インターネット)がとんでいて、ネットを使える端末を持っていれば暇つぶしができる。ちなみにJALのサイトから、現在位置を確認できるので、外の山を眺めつつ、“あれが剣ヶ峰か”などと物見高い気持ちが満たされる。

 そういう娯楽は一切ない。毛布もない。何もしない6時間半、眠れれば良いが、そうでなければ苦行でしかない。言い方はとても悪らつだが、奴隷船か家畜運搬車みたいなものである。

 わたしは、機内で寒さにこごえないため、昔カンタス航空から誤って持ち帰った毛布を持参した。やはり機内用の毛布はよく考えられていて、どんな大きな身体の人でもすっぽり被れる上に、たたむととても薄くなる。エアコンの冷たい風をしっかり遮ってくれる。

 最大限の寒さを予測して、ユニクロのウルトラ・ライトダウンベストを持っていき、ジャケットの下にはセーターを着込んだ。そこまでしなくても、といわれるかもしれないけれど、寝ている間に冷房で冷されると、現地に着いてから体調を崩しやすい。

 何よりの問題は、暇つぶしである。飛行機の上というのは、なぜか脳みそが活発になりやすい。いつも考え付かないアイデアが急にひらめいたりする。それは、身体の持つスピードによるのだろう。音速で飛んでいるのである。原始人からすると神様そのもの。

 ただ、わたしは身体も脳も原始人と同じ。神様にはなれない。ターボがかった脳を休ませないと、神経にさわって頭痛がしたり、ややもすると中枢神経がおかしくなって心臓の鼓動が早くなり、死ぬ寸前かと思うほど追いつめられる。

 いちどチャイナエアラインでその拷問そのものの体験をしてから、用心深くなった。

 何しろ、声も出せない、助けも求められない、頭は“いまお前は死にかけている”と誤った情報を発信しつづける。そうならないために、携帯型音楽端末(アイポッド・タッチ。後にこれが大変に役立つ旅の友と分かる)に落語を山ほど入れてきた。

 落語なら、一話完結で、およそ30分から1時間、目は閉じて耳だけ貸していれば良い。また他に何も出来ない不自由な身できく落語というのが、格別なのだ。頭はターボがかっているので語り口調から何から細かくききとれ、想像力にパッと花が咲く。

 ひとつきき終れば、6時間半のうちいくばくかは消化した、と分かるので安心につながる。ふたつ、みっつときくうちにタイ王国に近づくのである。

 今回、運が良かったのは、前にひろい空間がある、4列目の、上級クラスのひとつ後ろの席になったこと。席はチェックイン時に自動で割りふられるようだけれど、行きも帰りも同じ席だった。日本の旅行会社を通したからか何か分からないけれど、おかげでエコノミー症候群がいくらか楽になった。