4年ぶりのほほ笑み 3  平成30年5月タイ

 さて、スクート機内の様子。LCCで海外へ行ったことが無い人にとっては、そこがいちばん知りたい所だろう。機内は天井が高く、広々と感じた。席には、サイドテーブル、室内灯、客室乗務員を呼ぶボタンがあるだけ。いっそ潔く思えた。

 ごてごてと、ゲームの操縦ボタンや、使えないクレジットカードリーダー、まず使わない国際電話機などが装備されていたのは、もはや過去の話。

 冷房は、人によっては寒く感じると思う。タートルネックに長袖ジャケットを着込んだ女性を見かけた。半袖にショートパンツだの、ホットパンツでは凍えて苦しむ事になるだろう。

 機内食サービスの時間がある。全てシンガポールドル払いで、日本円を使うとお釣りがそれで返ってくると、ネットの口コミにはあったが定かではない。ミネラルウォーターが5S$=400円ほど。もし喉がかわいたら高いと思わず頼んだ方が良い。我慢して脱水を起こすよりマシだ。

 とはいえ乗客は、空港で130円程度の500ミリリットルの水を買って乗る。食べ物や飲み物の機内持ち込みは原則禁止ではあるけれど、とがめられる客は見なかった。食後の薬を飲まなければならない人の事を考えると、当然の措置である。

 わたしは、ものは試しに機内食を頼んだ。ミネラルウォーターとのセットで15S$=1,200円ほどと、少々高いのは承知の上だ。支払はクレジットカードが使える。


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 マカロニグラタンのようなもので、美味しく食べられた。ただ、まわりでみんな眉を寄せて眠ろうとしている中での、機内販売と食事。日本人の感覚だと気まずいのだけれど、機内はすでに海外である。

 海外では、お金を出している人間は、相応の待遇を受ける。日本でも同じだが曖昧な文化なのに比べ、海外ははっきりしたものだ。だから、みんな渋い顔をしていても、堂々とマカロニグラタンを食らって良い。

 お腹を満たし、落語にもきき飽きて、4時間ほど経った頃。

 いい暇つぶしを見つけた。わたしの席の目の前が、上級クラスと一般シートを隔てる、壁になっていた。出入りするには、カーテンをくぐらなければならない。そのカーテンは、離陸直後にぴしゃりと閉められる。

 そのカーテンが、暖簾(のれん)にそっくりなのだ。

 ぴしっとした制服ときりっとした化粧のCAなのに、カーテンをくぐる時だけ、居酒屋に出入りする酔っぱらい。“暖簾くぐり”である。

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 退屈しないことに、ちょうどその暖簾は、首の高さくらいに留め具がある。慣れていないCAは、カーテンの前で0.3秒ほど考え、暖簾を片手で上げ、ひょこっと頭をかがめてくぐる。じつに間抜けに見える。向こう側から“らっしゃい”と声がきこえそうである。

 それが慣れてくると、カーテンのすそをさっそうとつかみ、必要最低限開けて、すっとおじぎをするように通れるようになる。舞踊家がドレスのすそをさばくが如しである。

 だが、飲み物をのせたトレイを掲げていると、両手がふさがってそれも出来ない。ごく狭い隙間に頭をつっこみ、やっとこくぐり抜ける。CA達のあいだで、“あそこどうにかして欲しいよね”と愚痴る声がきこえそうだ。

 男性CAになると、力士か何かのように、おおげさに暖簾をひろげて通る。それぞれの工夫が自然と出来上がるようだ。そこを品良く潜れれば一人前(?)なのかもしれない。

 くだらない事を思い巡らせているうちにドンムアン空港に着いた。


(つづく)