4年ぶりのほほ笑み 8 文責;コータ

  ほれ 踊りな 酒で喉しめらせて

  あんたやさ男 だけどカネ無い

  神さまからの 助けさえ無い


  性悪美人に ふられりゃ悲惨

  負けでいいのさ つぶれていいよ

  

  たまにつぶれる夜があっても

  毎晩よりはまだましさ――



 ルークトゥンという、歌謡曲の一節。タイのカラオケ屋で飲むと、歌詞が身に染みてくる。


 メーさんの部屋で宴会に招かれた翌日、パタヤという街へ向かう前に、彼女の働く店にあいさつにいった。


 昨夜途中でいびきをかいた、タイヤイ娘2人も、元気に接客している。


 メーさんは正体不明に酔っぱらっている。どうも客にハイネケンを13本たて続けに飲まされたらしい。私のとなりでテーブルにつっぷし、


「もういや、こころヘトヘト、生きるのヤんなった」


 大泣き。暴発。若いタイヤイの2人も、なぐさめようとするが、お手上げ。アタマ痛いから、髪ひっぱって、と妙な頼み事をする始末。2人は、メーさんの髪を指に巻き、ぐいぐいひっぱる。


「ああ、いい、楽だあ」


 髪をふり乱しあちらこちら、危ない足取りでうろうろ。そんなメーさんは放置。アーヂンが、氷を入れたグラスに、ビールを“どぽっ”と注ぐ。豪快。


 細目、色白、ふっくらした顔立ちのアーヂンは、ここへ来る前は、バンコクで裁縫の仕事をしていた。ミャンマーの実家から、車でタイ国境のメーサイまで2日間。ミャンマー・タイ国境の橋を通り、それからまたバスに揺られてバンコクへ来た。


 その辺りの様子は、私も訪れた事があるので、手にとるように分かる。アーヂンの故郷は、まだ旅行者が入るのも難しい、秘境。服をミシン縫いしたり、ボタン着けなどしているうち、友人に誘われてこのカラオケ店で勤め、1年になる。


 客はタイ人である。私が眺めていると、友だちのような感覚で、タイ人の若者がつぎつぎと入って来ていた。働く女性たちは、ほとんどがタイヤイのような少数民族で、あか抜けない。水商売くささを感じさせない。


 こういう場所が日本にもあれば、さっこん増えている二十代男性の、動機不明な殺人事件も少なくなるかもしれない。彼らは、男性としての自信を失っているのでは。


 自由恋愛しか本物ではないと、日本の女性も、男性も、思いこんでいる。しかし精神分析医の岸田秀によれば、疑似恋愛も、自由恋愛も、脳の中では全く同じだという。恋愛自体が幻想だから。


 女性に相手にされない事にコンプレックスを持ち、誰でもいいから殺したい、とまで追い込まれる若者も、少しお金を出して疑似恋愛が出来れば、十分に満たされうるはず。


 アイドルみたいな、とくべつな存在でなくていい。近所にいるような、愛嬌のある女の人に、かるく相手にしてもらえるだけでいいのに。


 すこし、話題がいかがわしい方に向いてしまった。


 言い訳をするなら、旅行者が、少ない時間で現地人の話しをきくには、どうしても飲み屋が中心になるのだ。


 第一に、アルコールは、文化の壁を短時間でなくす。第二に、飲み屋で働く人は、多くの現地人を日々相手にするので、話題が豊富なのである。


 まあそんな事情もあり、アジア最大の、もっともいかがわしい街、パタヤを目指す事にした。