もののあわれについて935

宮を、所につけてはいとことに、かしづき入れ奉りて、この君は、あるじ方に、心やすくもてなし給ふものから、まだまらうどいのかりそめなる方にいだし放ち給へれば、「いとからし」と思ひ給へり。うらみ給ふもさすがにいとほしくて、物ごしに対面し給ふ。薫「たはぶれにくくもあるかな。かくてのみや」と、いみじく恨み聞こえ給ふ。





宮様を、山里らしくないほどに、丁重に、お迎え申して、薫の君は、主人側扱いで、気安くもてなすというものの、まだ客間の間に合わせの席に、遠ざけてになっているので、手厳しいと、思っている。

恨みに思うのも気の毒で、物越しに、対面される。薫は、冗談に出来ないほど、恋しいのだ。こんなこと、いつまで、と、酷く恨み申し上げる。





やうやうことわり知り給ひにたれど、人の御うへにても、物をいみじく、思ひしづみ給ひて、いとどかかる方を憂きものに思ひはてて、「なほひたぶるに、いかでかくうちとけじ。あはれと思ふ人の御心も、必ずつらしと思ひぬべきわざにこそあめれ。われも人も見落とさず、心たがはでやみにしがな」と思ふ心づかひ、深くし給へり。





おいおいと、道理もお分かりになっているが、妹宮の、身の上のことでも、物事を酷く悲観なさり、益々、結婚問題を辛いものと、決めてしまって、矢張り、絶対に、どうしても、あのように打ち解けることはない。慕わしいこの方の、お心も、きっと、酷いと思うことになるだろう。私も、あの方も、お互いに、見下げることなく、気まずくならないで終わりたい、と、思うことを、強くするのである。





宮の御ありさまなども問ひ聞こえ給へば、かすめつつ、さればよ、と思しく宣へば、いとほしくて、思したる御さまけしきを見ありくやうなど、語り聞こえ給ふ。





宮の、御有様なども、お尋ねになるので、姫宮は、ほのめかしつつ、案の上と、思いなさるような、おっしゃり方をするので、気の毒で、深く愛していらっしゃること、様子をいつも伺いつつ回っていることなど、お話し申し上げる。





例よりは心うつくしく語らひて、姫宮「なほかく物思ひくはふるほど過ごし、ここちもしづまりて聞こえむ」と宣ふ。人にくくけどほくはもて離れぬものから、さうじの固めもいと強し。しひて破らむをば、つらくいみじからむ、と思したれば、「おぼさるるやうこそはあらめ。かるがるしくことざまになびき給ふこと、はた世にあらじ」と、心のどかなる人は、さいへど、いとよく思ひしづめ給ふ。薫「ただいとおぼつかなく、物へだてたるなむ、胸あかぬここちするを、ありしやうにて聞こえむ」とせめ給へど、姫宮「常よりもわがおもかげに恥づる頃なれば、うとましと見給ひてむも、さすがに苦しきは、いかなるにか」と、ほのかにうち笑ひ給へるけはひなど、あやしくなつかしく覚ゆ。薫「かかる御心にたゆめられ奉りて、つひにいかになるるべき身にか」と嘆きがちにて、例の、とほやまどりにて明けぬ。

宮は、まだたびねなるらむとも思さで、匂宮「中納言の、あるじ方に心のどかなるけしきこそうらやましけれ」と宣へば、女君、あやしと聞き給ふ。





いつもより、素直に話し合い、姫は、矢張り、このように、気苦労の多い頃を済ませて、気持ちも落ち着いてから、お話ししましょう。と、おっしやる。

面憎く、よそよそしく、突っぱねはしないが、襖の戸締りも、とても固い。無理に破るのは、情けないと思い、お考えがあるのだろう。軽々しく、他の男に靡くことは、あるまい。と、おっとりした人は、何と言っても、よく思いの火を沈める。

薫は、ただ、あまりに物足りなくて、間に物があるのは、胸も晴れない気がするので、前夜のようにして、お話ししたいと、と責めるが、姫は、常にも増して、自分の姿が恥ずかしいこの頃です。いやな、と、御覧になっては、何と言っても辛いとは、どうしたことでしょう。と、少し笑いになる様子などは、妙に慕わしく思われる。薫は、こうしたお心に騙されて、しまいに、どうなってしまう身なのか、と、ともすれば、ため息をついて、例によっては、遠山鳥のように、別々で夜が明けた。

宮様は、今になっても、独り寝だなどとは、思いにならない。匂宮は、中納言が主人側で、ゆったりと、構えている様子が、羨ましい。とおっしゃるので、女君は、おかしなことと、聞いていらっしゃる。


薫は、姉宮と、匂宮は、妹宮と・・・

それぞれの、有様である。