4年ぶりのほほ笑み タイ旅日記 11  文責;コータ

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 タレントのはるな愛さんが、新聞で、自分の経営する鉄板焼き店で食事支援をしている、と話していた。外食の機会のなかなかない子供たちに、せめて気分だけでも、と始めたらしい。そんなはるな愛さんのプロフィールに必ず載せてあるのが、「ミス・インターナショナル・クイーン・コンテスト2009グランプリ受賞」というものだ。


 ミス・インターナショナル・クイーン・コンテストというのは、パタヤのティファニー・ショーが主催する、ニューハーフの世界的なコンペティション。タイでは、最終選考の様子はゴールデンタイムに放映され、選考委員席にはセレブリティ―がずらりと並ぶ。


 かた苦しい説明から入ってしまったけれど、ティファニー・ショーというのは、あのはるな愛さんの芸風のように、とにかく楽しいショー・キャバレーだ。10年程前、東南アジア一帯の異性装について、独自の調査を続けていた私が、避けて通れない総本山として突撃取材を試みた時から、ずっと追いかけている。


 ティファニー・ショーについての印象深い思い出は多々ある。そのひとつは、パッポン通りのニューハーフ専門ゴーゴーバーでの事。当時、翻訳していた洋書の舞台になっており、空気を感じるために訪れた。


 狭い店内に、ビキニ姿のガットゥーイ(*1)が、舞台から転げ落ちそうな程ひしめき合っていた。卑猥な冗談をとばし、客の取り合いで引っかき合いのケンカがしょっちゅう起こる。猛獣さながらの彼らが、幽霊でも通ったかと思うほど、静まり返る瞬間があった。


 天井に据えられたテレビモニターに、ティファニー・ショーのトップダンサーが、一人舞台を演じる姿。店内全てのガットゥーイの目が、その気品に満ちあふれた動作を、熱っぽい目で追っていた。何とかしてその美貌や芸を自分のものにしたいという、真摯な眼差しであった。


 ティファニー・ショーは、全てのガットゥーイから仰ぎ見られる。タイ全土のみならず、世界中のトランス・ジェンダーから一目置かれている。そんなトップダンサーたちも、舞台を降りれば、個性豊かなタイのガットゥーイに戻る。タイにいれば、コンビニや、ドラッグストアなどで、日常的に接することになる。


 取材を通して知り合ったティファニーのダンサーたちだったが、すぐに胸襟を開いてくれ、無二の友人となった人もいた。Oさんという。10年来の知己である。Oさんがいわば窓口となり、パタヤの奥深い性的少数者の世界、興味の尽きない彼らの内面を知る上で、良き水先案内人を得る僥倖に服した。


 ちなみにはるな愛さんは、ティファニー・ショーを訪れた2009年、まだ駆け出しのダンサーにまで、一人一人に化粧品を配ったという。とても性格の良い人だったと、ダンサーたちから伝えきいた。


「ハンナアイ(タイ人が話すと語中のルはンに変わりやすい)は、そんなに有名なの?」と皆にきかれた。彼らにとっては、はるな愛さんも、ガットゥーイのショーダンサーとして同じ地平に立つ同士なのだろう。


(註1)現代タイ語で、女性装をした男性の意味。日本語では“おかま”に近い。他にサーォ・プラペーッ・ソーン(第二種女性)という呼び方もあり、その方がより上品とされる。当事者同士であれば、親近感をこめて、ガットゥーイと呼び合う事も普通である。性別適合手術を受けている者も、そうでない者もおり、必ずしも全ての者が手術を望むわけではない。詳しくは、拙ブログ“レディボーイズ――タイ第三の性の知られざる世界”を参照されたし。

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