4年ぶりのほほ笑み 13 タイ旅日記

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(トップオブトップ、カンクゥン嬢。太ももの★マークの入れ墨がチャーミング)


 ティファニーショーのスターは美麗か? NO,という人はおそらくいまい。舞台は、一日3回行われ、各回は全く同じ構成である。体力と、集中力が極限まで要求される、ハイレベルな舞台だ。


 スターには、美貌と、サービス精神と、もって生まれたカリスマ性、それから何より第一に、正確無比のダンス技術が要求される。毎日3回の舞台により、美質が研ぎ澄まされていく。


 タイでは、トランスジェンダー(女っぽい男性から、手術済みのほぼ女性まで)が幅広く社会に浸透している。実は、タイ社会は保守的で、そうした人々を完全に受け入れているわけではないらしい。それでも、デパートの売り子や、薬局の薬剤師など、日々どこかでそうした人に出会う。日本よりも遭遇率は格段に高い。


 そんなTGたちが、雲の上の存在として仰ぎ見る、ティファニーのスター軍団。みんな、あんなふうに綺麗になりたいと夢を抱く。裾野が果てしなく広い中の、選りすぐりの、スターなのだから、綺麗を通りこして、ちょっとしたテーワダー(天上の神々)みたいなもの。


 表に立つ演者たちも括目に値するけれど、輪をかけて圧倒的なのが、振り付けや舞台づくりをする、天才たちの存在だ。タイ国内でも、数えるほどしかいないと言われる。彼らが、世界一の歓楽街、パタヤの人間模様や、自分の愛憎そのものを種に、心を打つ舞台を花咲かせる。演出、演技指導、振り付け、リーダーとして後継者の育成など、その仕事は多岐にわたる。


 ティファニーで、ピンでもやれる一握りの芸人は、リクルートされ、小規模のキャバレー団でナイトクラブにも出演する。根城は、深夜のゲイタウン。そこの小さなクラブのステージで、将来有望な演目を初演する。そこで客の反応をうかがい、改良を加えて、いくらか過激さを和らげてティファニーの大舞台で演じる。


 じっさい、今回観たティファニーの舞台で、4年前にクラブで演じられていた演目が、使われていた。パタヤのナイトクラブと、大舞台のティファニーはいわば裏と表。パタヤという色街にころがっている情話を芸術に高めるのが、ティファニー。唐突かもしれないけれど、いまに伝わる江戸時代の落語や歌舞伎が、多く吉原遊郭に題材をとったことを、思いおこさずにはいられない。


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(トップダンサーの一人、プイ。魂を燃やし尽くすがごとき熱情的なショーが圧巻) 


 10年も付き合っていると、当然演者たちも、わたしとともに年を取る。それでも毎日の舞台で緊張を保っているせいか、4年前に観たときと比べ、いささかも衰えを見せない。むしろパフォーマンスの勢いは増している。187センチの身長と長い脚に、10センチのハイヒールを履いた姿は舞台映えがする。


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(写真 エー)


 ティファニー最大のロングヒット、インド舞踊風のプログラムのメインダンサー。彼女を抜きには、その演目ははじまらない。わたしが初めて観たステージでも、目をみはるような柔軟性を活かし、舞台ところせましと踊っていた。10年経った今でも、かわらず、完成された舞踊を見せる。


 激しく回転しながら、片足を高くあげた姿勢を保って、つま先で踊る。そのとき、軸足、体幹が全くぶれない。腰をつきだし、背中を弓なりにそらせる。ふつう、あれだけ細かく、大きな振りを踊ったら、見るに堪えないほどふらつくはずだ。エーさんは、肩の線がぴたりと水平で上下にふれない。無駄のない、エネルギーが一点に集中する、静止してまわるコマを思わせる。


 残念ながら、エーさんのインド舞踊は、私の観た3ヵ月後に、終演になる。10年もの間人気を博したショーだったが、終わりはやはり来るものだ。最後に観られたわたしは果報者である。不世出の俳優。