もののあわれについて840 2016年10月03日 いとかからぬ程の事にてだに、過ぎにし人のあとと見るあはれなるを、ましていとどかきくらし、それとも見わかれぬまで降りおつる御涙の、みづくきに流れそふを、人もあまり心弱しと見奉るべきが、かたはらいたう、はしたなければ、おしやり給ひて、 源氏 死出の山 こえにし人を 慕ふとて あとを見つつも なほ惑ふかな 候ふ人々も、まほにはえ引きひろげねど、それとほのぼの見ゆるに、心まどひどもおろかな…続きを読む
もののあわれについて839 2016年09月14日 神無月には、おほかたも時雨がちなるころ、いとどながめ給ひて、夕暮の空のけしきも、えも言はぬ心細さに、降りしかど、と、ひとりごちおはす。雲居をわたる雁のつばさも、うらやましくまぼられ給ふ。 源氏 大空を かよふまぼろし 夢にだに 見えこぬ魂の 行方たづねよ 何事につけても、紛れずのみ、月日に添へて思さる。 十月は、普通でも、時雨がちな頃、ひとしお、思い沈み、夕暮れの…続きを読む
もののあわれについて838 2016年09月13日 いと暑きころ、涼しき方にてながめ給ふに、池のはちすの盛りなるを見給ふに、いかに多かる、などまづ思しいでらるるに、ほれぼれしくて、つくづくとおはするほどに、日も暮れにけり、ひぐらしの声はなやかなるに、お前のなでしこの夕ばえを、一人のみ見給ふぞかひなかりける。 源氏 つれづれと わが泣き暮らす 夏の日を かごとがましき 虫の声かな 蛍のいと多う飛びかふも、夕殿で蛍飛んで、と、例の、ふる…続きを読む