もののあわれについて873

内侍のかみもこの頃まかで給へり。こなたかなた住み給へるけはひをかしう、おほかたのどやかに、まぎるる事なき御ありさまどもの、簾のうち心はづかしうおぼゆれば、心づかひせられて、いとどもて静め目やすきを、おほ上は、近うも見ましかば、とうち思しけり。 尚侍も、この頃、退出されていた。 こちらの部屋、そちらの部屋と、住んでいらっしゃる感じが、面白く、まずまず、のんびりと、慌ただしさのな…

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もののあわれについて872

御息所、やすげなき世のむつかしさに、里がちになり給ひにけり。かんの君、思ひしやうにはあらぬ御ありさまを、くちをしと思す。内の君は、なかなか今めかしう、心やすげにもてなして、世にもゆえあり、心にくきおぼえにて候ひ給ふ。 御息所は、ほっとする間もない、宮仕えの気苦労で、お里がちになられた。 かんの君は、期待したのとは違うご様子を、残念に思うのである。 内の君は、かえって、華やか…

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もののあわれについて871

年ごろありて、また男みこ生み給ひつ。そこら候ひ給ふ御方にかかる事なくて、年ごろになりにけるを、おろかならざりける御すくせなど、世人おどろく。みかどは、まして、限りなくめづらしと、この今宮をば思ひきこえ給へり。「おりい給はぬ世ならましかば、いかにかひあらまし。今は何事もはえなき世を、いとくちおし」となむ思しける。女一の宮を、限りなきものに思ひきこえ給ひしを、かくさまざまにうつくしくて数そひ給へれば…

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