もののあわれについて905

ひきとどめなどすべき程にもあらねば、あかずあはれにおぼゆ。おいびとぞ、こよなき御かはりに出で来て、昔今をかき集め、悲しき御物語ども聞ゆる。ありがたくあさましき事どもを見たる人なりければ、かうあやしく衰へたる人とも思し捨てられず、いとなつかしう語らひ給ふ。薫「いはけなかりし程に、故院におくれ奉りて、いみじう悲しきものは世なりけりと、思ひ知りにしかば、人となり行くよはひに添へて、つかさくらい、世の中…

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もののあわれについて904

この宮などをば、かろらかにおしなべてのさまにも思ひきこえ給はず。なげの走り書い給へる御筆づかひ言の葉も、をかしきさまになまめき給へる御けはひを、あまたは見知り給はねど、これこそはめでたきなめれ、と見給ひながら、そのゆえゆえしく情けある方に言をまぜきこえむも、つきなき身の有様どもなれば、なにか、ただかかる山伏だちて過ぐしてむ、と思す。 この宮などを、いい加減に、世間普通の方と、思…

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もののあわれについて903

夕暮のほどより来ける御使、宵すこし過ぎてぞ来たる。姫「いかでか、かへり参らむ。こよひは旅寝して」と言はせ給へど、使「立ちかへりこそ参りなめ」と急げば、いとほしうて、われさかしう思ひしづめ給ふにはあらねど、見わづらひ給ひて、 姫 涙のみ 霧りふたがれる 山里は まがきにしかぞ もろごえになく 黒き紙に、よるの墨つぎもたどたどしければ、ひきつくろふ所もなく、筆にまかせて、おしつつみて出…

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