もののあわれについて952

中納言の、あるじ方に住みなれて、人々安らかに呼びつかひ、人もあまたして物参らせなどし給ふを、あはれにもをかしうも御覧ず。いといたうやせ青みて、ほれぼれしきまで物を思ひたれば、心ぐるしと見給ひて、まめやかにとぶらひ給ふ。 中納言が、主人顔して、住みつき、この家の者どもを気楽に呼んで、使い回し、女房も、大勢使い、食事を差し上げさせたりするのを、可哀そうとも、面白いとも御覧になる。酷いこ…

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もののあわれについて951

日ごろのつらさも紛れぬべき程なれど、対面し給ふべきここちもせず。思し嘆きたるさまのはづかしかりしを、やがて見なほされ給はずなりにしも、今よりのちの御心あらたまらむは、かひなかるべく思ひしみてものし給へば、誰も誰もいみじうことわりを聞こえ知らせつつ、物ごしにてぞ、日ごろのおこたりつきせず宣ふを、つくづくと聞きて給へる、これもいとあるかなきかにて、おくれ給ふまじきにや、と聞こゆる御けはひの心ぐるしさ…

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もののあわれについて950

はかなくて日ごろは過ぎ行く。七日七日の事ども、いと尊くせさせ給ひつつ、おろかならず孝じ給へど、かぎりあれば、御ぞの色のかはらぬを、かの御方の、心よせわきたりし人々の、いと黒く着かへたるを、ほの見給ふも、 薫紅に おつる涙も かひなきは かたみのいろを そめぬなりけり ゆるし色の氷とけぬかと見ゆるを、いとどぬらしそへつつながめ給ふさま、いとなまめかしくきよげなり。人々のぞきつつ見奉りて、「いふ…

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