もののあわれについて945

暮れぬれば、例の、人々「あなたに」と聞こえて、御湯漬など参らむとすれど、薫「近くてだに見奉らむ」とて、南の廂は僧の座なれば、東面の今少しちかきたかたに、屏風など立てさせて入りい給ふ。中の宮苦しと思したれど、この御中を「なほもてはなれ給はぬなりけり」と皆思ひて、うとくもえてもなし隔て奉らず。初夜より始めて法花経を不断に読ませ給ふ。声尊きかぎり十二人して、いと尊し。 日が暮れ、いつもの…

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もののあわれについて944

かく言ふは神無月のつごもりなりけり。「月もへだたりぬるよ」と、宮は静心なく思されて、今宵今宵と思しつつ、さはりおほみなる程に、五節などとく出できたる年にて、内わたり今めかしく紛れがちにて、わざともなけれど過ぐい給ふ程に、あさましく待ちどほなり。はかなく人を見給ふにつけても、さるは御心に離るる折なし。 このことがあったのは、神無月、十月の下旬だった。行かないまま月も変わってしまう」と…

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もののあわれについて943

弱き御心地は、いとど世に立ちとまるべくも覚えず。はづかしげなる人々にはあらねど、思ふらむところの苦しければ、聞かぬ様にて寝給へるを、姫宮、物思ふときのわざと聞きし、うたた寝の御様のいとらうたげにて、かひなを枕にて寝給へるに、御ぐしのたまりたる程など、ありがたく美しげなるを見やりつつ、親のいさめし言の葉も、返す返す思ひいでられ給ひて悲しければ、「罪深かなる底にはよも沈み給はじ。いづこにもいづこにも…

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