もののあわれについて960

道の程の遥けくはげしき山路のありさまを見給ふにぞ、つらきにのみ思ひなされし人の御中のかよひを、ことわりの絶えまなりけり、と、少し思し知られける。七日の月のさやかにさし出でたる影、をかしく霞みたるを見給ひつつ、いと遠きに、ならはず苦しければ、うちながめられて、 中の宮ながむれば 山よりいでて 行く月も 世にすみわびて 山にこそ入れ さまかはりて、つひにいかならむ、とのみ、あやふく行く末うしろめ…

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もののあわれについて959

思ほし宣へるさまを語りて、弁はいとどなぐさめがたくくれまどひたり。みな人は心ゆきたるけしきにて、物縫ひいとなみつつ、老いゆがめるかたちも知らず、つくろひさまよふに、いよいよやつして、 弁人はみな いそぎたつめる 袖の浦に ひとり藻塩を 垂るるあまかな とうれへ聞こゆれば、 中の宮しほたるる あまのころもに ことなれや 浮きたる波に ぬるるわが袖 世に住みつかむことも、いとありがたかるべき…

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もののあわれについて958

つれづれの紛らはしにも、世の憂きなぐさめにも、心とどめてもてあそび給ひしものを、など、心にあまり給へば、 中の宮見る人も あらしにまよふ 山里に むかし覚ゆる 花の香ぞする 言ふともなくほのかにて、たえだえ聞こえたるを、なつかしげにうちずんじなして、 薫袖ふれし 梅はかはらぬ にほひにて 根ごめうつろふ 宿やことなる たへぬ涙をさまよくのごひ隠して、こと多くもあらず。「またもなほ、かやう…

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