もののあわれについて970

もとよりも、けはひはやりかにををしくなどはものし給はぬ人がらなるを、いよいよしめやかにもてなしをさめ給へれば、今はみづから聞こえ給ふことも、やうやう、うたてつつましかりし方、少しづつうすらぎて、おもなれ給ひにたり。悩ましく思さるらむさまも、薫「いかなれば」など問ひきこえ給へど、はかばかしくもいらへ聞こえ給はず。常よりもしめり給へるけしきの心苦しきも、あはれに思ほえ給ひて、こまやかに、世の中のある…

続きを読む

もののあわれについて969

なげのすさびにものを言ひふれ、けぢかく使ひならし給ふ人々のなかには、おのづからにくからず思さるるもありぬべけれど、まみとには心とまるもなきこそさわやかなれ。かの君たちの程に劣るまじき際の人々も、時世に従ひつつ衰へて、心細げなる住まひするなどを、尋ねとりつつあらせなど、いと多かれど、今はと世をのがれそむき離れむ時、この人こそと、とりたてて、心とまるほだしになるばかりなることはなくて過ぐしてむ、と思…

続きを読む

もののあわれについて968

八月になりぬれば、その日などほかよりぞ伝へ聞き給ふ。宮はへだてむとにはあらねど、言ひ出でむほど心苦しくいとほしく思されて、さも宣はぬを、女君はそれさへ心憂くおぼえ給ふ。「しのびたることにもあらず、世の中なべて知りたる事を、その程などだに宣はぬこと」と、いかが恨めしからざらむ。かく渡り給ひにしのちは、ことなることなければ、内に参り給ひても、夜とまる事はことにし給はず。ここかしこの御夜がれなどもなか…

続きを読む