もののあわれについて965

さて打たせ給ふに、三番に数ひとつ負けさせ給ひぬ。主上「ねたきわざかな」とて、「まづ今日はこの花ひとえだ許す」と宣はすれば、御いらへ聞こえさせで、おりて、おもしろき枝を折りて、参り給へり。 薫世の常の 垣根ににほふ 花ならば 心のままに 折りて見ましを と奏し給へる、用意あさからず見ゆ。 主上霜にあへず 枯れにし園の 菊なれど 残りの色は あせずもあるかな と宣はす。 さて、…

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もののあわれについて964

御まへの菊うつろひはてて盛りなるころ、空のけしきのあはれにうちしぐるるにも、まづこの御方に渡らせ給ひて、昔のことなど聞こえさせ給ふに、御いらへなども、おほどかなるものからいはけなからず、うち聞こえさせ給ふを、うつくしく思ひきこえさせ給ふ。かやうなる御さまを見知りぬべからむ人のもてはやし聞こえむも、などかはあらむ。朱雀院の姫君を、六条院にゆづり聞こえ給ひし折の定めどもなど、思しいづるに、「しばしは…

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もののあわれについて963

宿木 やどりき その頃、藤壺と聞こゆるは、故左大臣殿の女御になむおはしける。まだ東宮と聞こえさせし時、人より先に参り給ひにしかば、むつまじくあはれなる方の御おもひは、ことにものし給ふめれど、そのしるしと見ゆるふしもなくて年経給ふに、中宮には、宮たちさへあまた、ここらおとなび給ふめるに、さやうのことも少なくて、ただ女宮一ところをぞ持ち奉り給へりける。わがいと口惜しく、人二おされ奉りぬる宿世、なげ…

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