もののあわれについて955

こまやかなる御物語どもになりては、かの山里の御ことをぞ、まづはいかに、と、宮は聞こえ給ふ。中納言も、過ぎにしかたのあかず悲しきこと、そのかみより今日まで思ひの絶えぬ由、をりをりにつけて、あはれにもをかしくも、泣きみ笑ひみとか言ふらむやうに、聞こえ出で給ふに、まして、さばかり色めかしく、涙もろなる御くせは、人の御上にてさへ、袖もしぼるばかりになりて、かひがひしくぞあひしらひ聞こえ給ふめる。空のけし…

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もののあわれについて954

いとさかりににほひ多くおはする人の、さまざまの御物思ひに、少しうちおもやせ給へる、いとあてになまめかしきまさりて、むかし人にも覚え給へり。ならび給へりし折は、とりどりにて、さらに似給へりとも見えざりしを、うち忘れては、ふとそれかと覚ゆるまでかよひ給へるを、「中納言殿の、からだにとどめて見奉るものならましかば、と、あさゆふに恋ひきこえ給ふめるに、同じくは見え奉り給ふ御すくせならざりけむよ」と、見奉…

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もののあわれについて953

早蕨 さわらび やぶし分かねば、春の光を見給ふにつけても、「いかでかくながらへにける月日ならむ」と、夢のやうにのみ覚え給ふ。行きかふ時々にしたがひ、花鳥の色をも音をも同じ心に起き臥し見つつ、はかなきことをも、もとすえをとりて言ひかはし、心ぼそき世の憂さもつらさも、うち語らひ合はせ聞こえしにこそ、なぐさむかたもありしか、をかしきこと、あはれなるふしをも、聞き知る人もなきままに、よろづかきくらし、…

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